高速無線LAN情報局

総務省によるプラネックスへの甘い処分に断固抗議する

2007年8月6日(月)、プラネックスがIEEE802.11n対応のクライアント製品3種を回収すると発表しました。

[リンク] Draft IEEE802.11n 無線LANクライアント 一時回収についてのお詫びとお願い

前代未聞のこの珍騒動にはいろいろと裏があるようですが、この件に対し厳しく対応しなければならない監督官庁である総務省の腑抜けた甘い対応には呆れるばかりです。
少々長くなりますが、誰かが記録を残して抗議しないと"お役所"は改善しようともしないので、筆者は断固抗議するためにこのページを記します。

疑惑

2007年の5月、ゴールデンウィークが明けた頃に不穏な噂を人伝で耳にしました。「プラネックスが総務省から処分されるらしい」という噂です。どうやら同社が4月末頃にリリースしたIEEE802.11n対応無線LANの製品が、バンド幅40MHzのデュアルチャネルで電波を出してしまうらしいのです。
バンド幅40MHzでの通信は6月28日に法律が改正されたので、4月の時点では40MHz幅で通信できる無線設備は日本にないはずです。
筆者が聞いたときには、既にプラネックスに総務省が聞き取り調査をしているとか何とか言われていました。

この話を耳にしたとき、筆者は「ついに天下のプラネックスも処分されるのか」と感慨深い思いをしたものです。というのも、プラネックスは一昨年に同様の事件を起こし、考えられないようなウルトラCの対応で乗り切ったことがあったからです。

2005年の8月にリリースした無線ルータ「BLW-54SAG」は、同年5月に改正された電波法関連法案でいわゆるJ52ではなくW52とW53のチャネルに対応した無線LANという触れ込みでした。
ところが驚くべきことに、登録証明機関のケミトックスで取得されたIEEE802.11aの工事設計認証「004WYBA0013」にはW53が含まれておらず、W52のみ使用できる申請になっていたのです。
「BLW-54SAG」はW52、W53対応ですから、設定画面でW53のチャネルである52~64chを設定できます。これはとんでもない話で、絶対に回収かと思っていたら、プラネックスは思いもよらぬ荒技で対応したのです。

[リンク] 無線LANブロードバンドルータBLW-54SAGシリーズについてお詫びとお願い

プラネックスはお知らせのページで、次のふたつの対応ができるから、好きな方を選択しろと利用者に迫りました。

  1. 2006年3月から5月のわずか3か月の間にプラネックスに製品を送れば、新しい認証番号を貼り付けた製品を送り返す。
  2. W53のチャネルに設定しないでそのまま利用する。

この告知を知らない人は、電波法違反に気付かずに使い続ける可能性があります。大した告知もせず、形だけのお詫びをしただけですから、利用者に違法なものを使わせても構わないという対応のようにしか思えません。本来であれば、無期限で回収し、改善してから利用者に使って貰うべきでしょう。

このふたつの対応は、どちらもあり得ないものですが、百万歩譲るとして前者はまだ理解できます。しかし、後者の対応は考えられません。「使用しないでください」で終わり。そんなことがあっていいのでしょうか。
日本は電波法などで2004年より工事設計合致義務という決まりが認証取得業者に課せられていて、それを守らなければならないのですが、プラネックスのこの対応ではそれが守られているとは全く言えません。

工事設計合致義務

これまで、電波法を全く遵守しないようなデタラメな無線LANなどの無線設備が市場に流れることが多くありました。それに厳正に対応すべく、総務省が新たな決まりを設けました。それが電波法第38条の25第1項で定められる工事設計合致義務です。
通常、無線LAN製品などは工事設計認証と呼ばれる認証を受け、電波法に合うことを確認した上で製品個別の認証番号を発行して貰い、それを製品に表示します。これが正しく行われるようにするため、総務省は工事設計認証を取得する業者に対し、間違いなく認証の基準に合った製品を出荷するよう義務づけました。 それを履行するための具体的な取り決めとして、電波法第38条の25第2項はおおよそ次のように定められています。

要は、認証試験を受け、その認証を満たすような製品を出荷するために定められた製品の出荷時試験を行い、その記録を10年間保存しろということです。
これを逆で考えると、当たり前の話になりますが、工事設計認証を満たさないような無線LAN製品をリリースしてはいけないのです。
これを守らなかった業者には総務大臣の名で業務改善の措置命令を出すことができたり、悪質な場合は業者の担当者を懲役1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処すことができるほか、業者を最大1億円の法人重課の罰金刑に処すことができます。

プラネックスの「BLW-54SAG」の場合、工事設計認証はW52となっているのですから、W53が使用できるのは明らかに工事設計合致義務違反です。その上、W53は気象レーダや航空レーダと干渉する重要な周波数帯であるので、認証を受けていない無線LAN製品がW53チャネルを使うことなど以ての外です。
しかし、どういうわけかプラネックスの「BLW-54SAG」は、メーカでのラベルの張り替えか該当チャネルを使わないという異例の対応が許されています。どうしてこのようなことが許されるのでしょうか。工事設計合致義務は一体何のために設けられた決まりなのでしょうか。
そもそも、プラネックス自身が電波法第38条の25第2項に定める製品の確認試験を行い、記録の保存をしているのでしょうか。
謎は深まるばかりです。

二度目の失敗

そのような失敗をしでかした、いわば前科1犯のプラネックスが11n製品でまたもや失敗をやってしまいました。

[リンク] Draft IEEE802.11n 無線LANクライアント 一時回収についてのお詫びとお願い

発表によると、IEEE802.11n対応クライアントの3製品「GW-NS300N」、「GW-US300MiniW」、「GW-DS300N」が、いずれも20MHzのバンド幅でしか通信できない製品であるにも関わらず、40MHz幅のデュアルチャネルに設定したアクセスポイントと40MHz幅のデュアルチャネル通信ができてしまうようです。

電波法違反の製品たち

ちゃんと動作確認をしていないからこのようなことになるのでしょうが、お粗末すぎます。ドライバのソースを理解すれば、40MHz幅のデュアルチャネルのアクセスポイントがあればそれに繋がってしまうことくらいすぐに分かりそうなものですが、そうはいかなかったようです。

法律を改正する前にフライングで対応製品が市場に流出してしまうという事態に対し、総務省の担当は相当お怒りであったようです。今回は厳しく処分するため、5月末に予定していた40MHz幅通信を許可する法改正は、処分が決定してからになるとも聞きました。
人伝なのでよく分かりませんが、法律改正後に処分をしたのでは「ちょっとフライングしたくらいいいじゃん」という雰囲気になるため、法改正の前にしかるべき処分をしてから法律を改正するという意味らしいです。

ところが、蓋を開けてみれば、法改正は1か月延びて6月28日になったものの、プラネックスの処分などは総務省からは発表されずじまい。法改正が1か月延びたのもどのような理由があったのかは分からないままです。
そして、8月6日になってようやくプラネックスが製品の回収を発表しました。不具合が分かって3か月以上経ってからです。3か月もの間、プラネックスは電波法に違反する製品だと分かっておきながら出荷していたことになります。後での回収を考えると出せば出すほど損するはずなので、今回も回収なしで乗り切れるとでも思っていたのでしょうか。
考えれば考えるほど不可思議で納得のいかない話です。

電波法の存在意義

電波法違反で問題となったプラネックスの製品は、日本のアールエフ・テクノロジーとドイツのPHOENIX TESTLABという登録証明機関で工事設計認証を受けました。

製品名認証番号認証取得登録証明機関認証取得日
GW-US300MiniW204NY20701700PHOENIX TESTLAB平成19年5月8日
GW-DS300N006NYC0098アールエフ・テクノロジー平成19年4月20日
GW-NS300N006NYC0099

登録証明機関は試験をして認証番号を出すだけの機関ですので、認証取扱業者(メーカー)がどんな製品を出そうが知ったこっちゃありません。実際、事後措置として電波法では、登録証明機関は違反に気が付いたら総務省に報告するように義務付けられているだけです。

今回の件は、あくまでもプラネックス 1社だけに関わる問題です。
認証取得関係のの担当者および開発の人間がどのような意識でいるのかは知りませんが、二度も大きな失敗をしたことを見る限り、プラネックスには法令遵守の意識が著しく欠けているように思えます。
無線LAN製品は、価格やデザイン、安定性が求められるのは当然ですが、その前提として国内法に準拠したものでなければなりません。最低限のルールすら守れなかったことは嘆かわしいことです。

しかしまあ、これも仕方のないことでしょう。所詮人がやることですから、失敗はあります。「うっかりW53の申請を忘れていた」、「うっかりデュアルチャネル通信の機能を切り忘れていた」ということもあるでしょう。
これは、メーカ担当者の遵法意識の低さ、技術力の低さに起因するもの以外の何ものでもありませんが、人がやることですから「ついうっかり」があっても仕方がありません。

しかし、無線LAN製品や無線LANメーカの監督官庁である総務省が、それら失敗に対し、「回収したらいいよ」という処分だけで済ませるというのはどういうことでしょうか。
工事設計合致義務は、認証を取得しておきながら後でデタラメな無線設備を出す業者を取り締まるために作られた義務です。それに定められたメーカへの立入検査と、回収しろとの措置命令だけで終わるとはビックリです。
プラネックスは一度の失敗ではありません。二度目の失敗であり、それ以外にも、ここでは書きませんが、疑わしいものがいくらかあります。
にも関わらず、市場に多数出回った製品を適当に回収するだけで終わりなのですから、電波法は一体何のためにあるのが疑問でなりません。何度も同じ失敗を繰り返すメーカには、もっと厳しい処分をもって、厳正なる対応をすべきではないでしょうか。

世の中にはきっちりと電波法をきっちり守って製品をリリースする企業があれば、電波法を軽視してちゃらんぽらんな製品を出す企業もあります。プラネックスが後者であることにはガッカリでした。
個人的には、無線LAN市場がBuffaloの寡占状態になっていることもあり、プラネックスにはNECなどと一緒に第二勢力として頑張って貰いたいのですが、順法精神にやや欠ける企業体質は変えられるのでしょうか。それができない限り、無線LAN市場での成長などあり得ません。
プラネックスは製品回収の発表で、「法令遵守の為いったん全数を回収します」などと殊勝なことを言っていますが、総務省に命令されただけではないでしょうか。

また、プラネックスはW53の申請をしていなかった「BLW-54SAG」に関する発表で、「多大なご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げますとともに、今後このようなことが発生しないよう管理体制を強化し、再発防止に努めていく所存でございます。」と言っていました。
そして今回も以前と全く同じコメントが出されています。
決まり文句のコピーアンドペーストでも何でも結構ですが、三度目はないようにお願いしたいものです。

(2007.08.11)