高速無線LAN情報局

IEEE802.11nの高速化技術 (2)

この章では、OFDMを用いた無線LAN通信を11nでいかに速くしているのかを簡単に解説します。

まずはデータレートの話から

11nの高速化を説明する前に、まずはレガシーな11a/g規格などで使われているOFDMを用いた無線LAN通信でのデータレートについて説明します。それが分かっていないと、11n規格での速度向上の工夫が理解できないからです。

デジタル変調の一種であるOFDMでは、送信時に高速データを複数の低速データに分割し、複数のサブキャリア(搬送波)からなる波形に変更して並列伝送を行います。
OFDMは複数のサブキャリアからなる信号になっているので、マルチパス(障害物で反射して遅れて届く電波)に強いとされています。

送信時、次のようにしてデータがOFDMシンボルに変換されています。

OFDM
  1. データが直並列変換(Serial-to-Parallel Converter)される。
  2. データ列をサブキャリア数(11a/gは48本)に分割し、それぞれ分割したデータにサブキャリア変調を行う。無線LANで使われるサブキャリア変調には、BPSK、QPSK、16QAM、64QAMの4種類がある。
  3. 複数のサブキャリア変調信号を高速逆フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)で合成し、IFFT出力信号を生成。
  4. IFFT出力信号を最後の部分から一定期間(0.8us分)コピーし、それをガードインターバルとしてIFFT出力信号の先頭に繋ぎ合わせる。
  5. これでOFDMシンボルのできあがり。

細かい話はどうでもいいのですが、ここで重要なのはデータをサブキャリアという搬送波に分けることです。このサブキャリア1本あたりにどれだけデータを載せるか、ひとつのOFDM信号が何本のサブキャリアで形成されるかがデータレートの値を左右します。
ひとつのOFDM信号にたくさんデータが載っていれば、それだけ多くデータを運べ、データレートが高まるからです。
これは、変調方式等によって異なります。どのようになっているかは、下の表を参照してください。

変調方式符号化率NBPSCSNSDNCBPSNDBPS送信レート
(Mbps)
BPSK1/214848246
BPSK3/414848369
QPSK1/2248964812
QPSK3/4248967218
16QAM1/24481929624
16QAM3/444819214436
64QAM2/364828819248
64QAM3/464828821654
NBPSCS … シングルキャリアあたりのビット数
NSD … データ信号用サブキャリア数
NCBPS … OFDMシンボルあたりの符号化ビット数
NDBPS … OFDMシンボルあたりのデータビット数

データレートが6Mbpsの場合を見てみましょう。
そのとき、NBPSCSは1ですので、シングルキャリア(つまり1本のサブキャリア)あたり1bitだけデータが載せられます。OFDMシンボルは48本のデータ信号用サブキャリアからなりますので、1シンボルあたり48bit載せられていることになります。
しかし、実際は符号化率(畳み込み符号化における入力と出力の比率)が1/2であるため、48bitのうちデータに戻せるものは1/2の24bitになります。
OFDMシンボルは1シンボルあたり、ガードインターバル0.8us(800ns)、データ領域3.2usの計4usで送信するよう決められています。つまり、4usで送ることができるOFDMシンボルあたりのデータビット数によってデータレートが決められます。
データレート6Mbpsの場合、24bitのデータが4usで送られるため、1秒あたりのレートが24÷(4×10-6)=6×106bps、つまり6Mbpsとなるのです。

ほかのレートも同様です。
54Mbpsの場合、シングルキャリアあたり6bit載せられ、符号化率が3/4であることから、OFDMシンボルあたり216bitとなります。それを4usで送ったとき、データレートは54Mbpsとなります。

65Mbpsへの道

先の解説で、IEEE802.11nでは、このデータレートを高めているということを書きました。
ひとまず、これまでのレガシーな規格(IEEE802.11a/g)の54Mbpsから、11nにある65Mbpsに高めるため、どのようなことが行われているのかを見てみましょう。

11nの規格を考える賢い人たちは考えました。どうすれば54Mbpsというデータレートを高めることができるか。
そこででてきたのが、サブキャリア数を増やすことと符号化率を高めることでした。

レガシーな規格では、OFDMシンボルあたりのサブキャリアは、パイロット信号用が4本、データ信号用が48本の計52本でしたが、ここにさらにデータ用を4本追加して、パイロット信号用が4本、データ信号用が52本の計56本になりました。
データ信号用のサブキャリア数が増えると、それだけデータの伝送量が増えることになります。

また、符号化率はこれまで3/4くらいがちょうどいいということになっていましたが、実は5/6くらいでも問題ないということが分かってきました。
これまでは4bit符号化したうち、最高でも3bitだけが使われて1bitが捨てられるという、効率が3/4が最高でした。しかし、実際は6bit符号化したうち、5bit使って1bit捨てるという、効率5/6でも問題ないため、符号化率5/6が11n規格で採用されています。

これを上記の表と同様にして、11nのデータレートに当てはまるように考えてみましょう。
変調方式が符号化率が少しずれていますが、大きく変わっているのは表の赤色部分です。

MCS
Index
変調方式符号化率NBPSCSNSDNCBPSNDBPS送信レート
(Mbps)
0BPSK1/215252266.5
1QPSK1/22521045213.0
2QPSK3/42521047819.5
316QAM1/245220810426.0
416QAM1/245220815639.0
564QAM3/465231220852.0
664QAM2/365231223458.5
764QAM5/665231226065.0
NBPSCS … シングルキャリアあたりのビット数
NSD … データ信号用サブキャリア数
NCBPS … OFDMシンボルあたりの符号化ビット数
NDBPS … OFDMシンボルあたりのデータビット数

65Mbpsのデータレートを見てみましょう。
データ信号用サブキャリア数が48本から52本に増えました。また、符号化率が3/4から5/6に高まりました。これにより、6×52×5/6で260bitのデータが4usで伝送されるため、260÷(4×10-6)=65Mbpsとなります。

涙ぐましいともいえる努力によって、データレートを54Mbpsから65Mbpsにできることが分かったと思います。
次の章では、それを一気に倍の130Mbpsにするための高速化技術について説明します。

「IEEE802.11nの高速化技術 (3)」に続く → 続き

(2008.12.27)