高速無線LAN情報局

IEEE802.11nの高速化技術 (3)

1本より2本

これまで、54Mbpsだったデータレートを65Mbpsにするために、OFDMのサブキャリアの数を増やして少しだけデータの転送効率を高めるという話を書きました。ここでは、その65Mbpsを一気に130Mbpsにする話をしましょう。

11nで使われている技術のうち、もっともよく知られているのがMIMO(マイモ)という技術でしょう。MIMOは、「Multiple Input Multiple Output」の略で、日本語でいうと「多入力多出力」となります。
複数のアンテナで送信し、複数のアンテナで受信するという技術です。

これまでの11aや11gなどの無線LANでは、アクセスポイントにアンテナが2本付けられていたものの、実際のデータは1系統で送られているだけでした。
送信ダイバーシティであったとしても、2系統のデータが出ていくわけでなく、いい方のアンテナ(つまり1本のアンテナ)を使って1系統のデータを送信します。受信ダイバーシティであったとしても、2本のアンテナで受けて受信状態がいい方のアンテナの受信データが使われます。すなわち、結局は送受信に1本ずつしか使わないということです。

しかしMIMOでは、2本のアンテナで2系統のデータを送信し、2本もしくは3本のアンテナでそれぞれ受信し、2系統のデータを別々に処理できるのです。
当然、一度に1系統のデータだけを送るより、2系統のデータを送る方がデータを多く送ることができます。1車線の道路より、2車線の道路の方が車が多く走れるのと同じです。

MIMO

MIMOの場合は、2系統で送信されたデータを2本もしくは3本のアンテナでそれぞれ別々に受信することができます。それを難しい計算をして、データをうまく取り出すわけです。
さらには、反射した電波(マルチパス)を受信した場合でも、位相差をうまく計算するようになっており、MIMOでは複数アンテナの受信によって通信の品質を高めるようにされています。

上記のように、データを複数の系統で送る技術を特にSDM(Space Division Multiplexing、空間分割多重)と呼びます。
11a/gのように1系統(1ストリーム)でデータを送信するのに対し、11nで使われているMIMOのSDMでは2系統(2ストリーム)以上で送信できるようになっています。ドラフト段階の現状では、市場に出回っている製品は2ストリームに対応しているものしかありませんが、規格上では4ストリームまで定められています。

さらに倍

MIMOのSDM技術によって、65Mbpsだったデータレートを倍の130Mbpsにできることを説明しました。
11nの高速化にあたり、さらに倍にするために、通常は1チャネルで通信するところを倍の2チャネル分使うことが決められました。無線LANで使われるチャネルは帯域幅がおよそ20MHzですが、2チャネル分使うことで帯域幅が40MHzとなります。
チャネルを束ねるという意味で、チャネルボンディングなどと呼ばれることもあります。

チャネルボンディング

これをするとどうなるか。帯域幅が2倍になるので、運べるデータも2倍になるのでデータレートがさらに倍になるわけですが、実際は「IEEE802.11nの高速化技術 (2)」で説明したサブキャリアをもう少し増やすことができるので、さらにもう少しだけ上げることができます。
データ用のサブキャリアの数は、11nのときに52本と説明しました。2チャネル分使うときは倍の104本になりそうな感じですが、実際はチャネル間の隙間だった部分にもサブキャリアを4本入れられるので、108本になります。
ですから、チャネルボンディングによって、実際は2倍ではなく、それより少しだけ大きい108/52倍になります。

ガードインターバルを短く

「IEEE802.11nの高速化技術 (2)」で、OFDMの変調でデータをOFDMシンボルに変換する場合、逆フーリエ変換のあとに得られるIFFT出力信号にガードインターバルと呼ばれる冗長信号を付加することを説明しました。
ガードインターバルは、マルチパスの遅延波による干渉を軽減させるために実データの先頭部分に挿入される時間のことです。

通常、11aや11gといったレガシーな無線LANでは、OFDM1シンボルあたり4.0usと時間が決められていて、そのうちデータ部分が3.2us、ガードインターバルが0.8us(800ns)となっていました。
しかし、11nではMIMOなどの技術を利用することによってガードインターバルを短くできるようになりました。それまで800nsを400nsにしても問題ないため、ガードインターバルを400nsにした通信が行われています。

ガードインターバル

こうすることによってOFDMシンボル自体が短くなり、ガードインターバルが800nsのときより400nsのときの方がより短い時間でOFDMシンボルを送信できるようになることが分かります。
すなわち、今まで4.0usかかっていたものが3.6usになるので、4/3.6倍高速になるのです。

まとめ

ここまで、11nの高速化として、以下のことについて説明しました。

  1. 符号化率の向上
  2. サブキャリア数増加
  3. バンド幅40MHz(チャネルボンディング)
  4. MIMOのSDMによる2ストリーム通信
  5. ガードインターバル短縮

OFDMの54Mbpsのデータレートは、上の5項目の技術によって300Mbpsになります。

符号化率の向上によって、それまで最大3/4だった符号化率が5/6になりました。これにより、データレートが(5/6)/(3/4)で10/9倍になります。

サブキャリア数増加とバンド幅40MHzは内容的には同等です。ハンド幅が倍になることで、サブキャリア数が増えるからです。
このとき、元々データ信号用に48本だったサブキャリアが108本になります。つまり、9/4倍になります。

MIMOのSDMによる2ストリーム通信によって、データレートが2倍になります。

最後にガードインターバルの短縮によって、データレートが4/3.6で10/9倍になります。

すなわち、これらを総合すると、次のような計算になります。

54 × 10/9 × 9/4 × 2 × 10/9 = 300 (Mbps)

11nのデータレートは、このようにして300Mbpsまで高められています。

ただし、これは理論値であり、11nの実効レートを高めるためにそのほかに、A-MPDUなどのフレームアグリゲーションや、ブロックACKなど、もっと多くの新技術が用いられています。
それにより、実効レート100Mbpsオーバーの11nの高速通信ができるわけです。

(2009.5.23)